千葉地方裁判所 昭和35年(ワ)149号 判決 1962年5月26日
判 決
千葉県市川市湊一〇九番地
原告
大和留吉
右訴訟代理人弁護士
谷川八郎
同
岡村勲
千葉県市川市押切七〇番地
参加人
梶原秋男
右訴訟代理人弁護士
那須忠行
千葉県市川市湊一〇九番地
被告
渡辺松雄
右当事者間の、昭和三五年(ワ)第一三六号、第一四九号土地明渡等請求事件について、当裁判所は、次の通り判決する。
主文
一、被告は、原告に対し、別紙第二目録記載の土地の周辺に存在する鉄条網及び板囲を撤去して、同土地を明渡さなければならない。
二、参加人と被告との間に於て、別紙第一目録記載の(3)の土地が参加人の所有であることを確認する。
三、被告は、参加人に対し、右土地について、千葉地方法務局市川出張所昭和三五年一月七日受付第八〇号を以て被告の為めに為された所有権移転登記の抹消登記手続を為さなければならない。
四、原告のその余の請求を棄却する。
五、訴訟費用は、原告と破告との間に於て生じた分は、之を二分し、その一を原告の負担、その余を被告の負担とし、参加人と被告との間に於て生じた分は、全部、被告の負担とする。
六、本判決は、第一項に限り、仮に之を執行することが出来る。
事実
原告訴訟代理人は、「(一)被告は、原告に対し、別紙第二目録記載の土地の周辺に設置されて居る鉄条網及び板囲を撤去し、同土地を明渡さなければならない、(二)被告は、原告に対し、別紙第一目録記載の(3)の土地について、千葉地方法務局市川出張所昭和三五年一月七日受付第八〇号を以て被告の為めに為された所有権移転登記の抹消登記手続をしなければならない、(三)訴訟費用は被告の負担とする」との判決並に第一項について仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
一、別紙第一目録記載の(1)乃至(3)の土地は、原告の所有であつて、且原告に於て、之を占有し来たつて居たものであるところ、被告は、昭和三四年一二月九日、訴外巌本繁雄、同石川栄一と共に、人夫十数名を伴い来つて、右土地に侵入した上、同土地の内別紙第二目録記載の土地部分に建築してあつた原告所有の物置(建坪二四坪五合)を、暴力を以つて、取毀し、且、右土地部分の周辺に鉄条網及び板囲を設置して、右訴外人等と共に、之を占有し、以て、同土地に対する原告の占有を不法に奪取し、更に、被告は、右土地の内(3)の土地について所有権を取得した事実など全くないに拘らず、同土地に対し、不法に、自己名義を以て、所有権取得の登記(千葉地方法務局市川出張所昭和三五年一月七日受付第八〇号所有権移転登記)を為して居る。
二、仍て所有権に基き、被告に対し、右土地部分の周辺に設置されて居る鉄条網及び板囲の撤去と同土地部分の明渡とを命ずる判決を求めると共に、前記(3)の土地に対する被告名義の所有権取得登記(千葉地方法務局市川出張所昭和三五年一月七日受付第八〇号の所有権移転登記)の抹消登記手続を為すべきことを命ずる判決を求め、尚、右土地部分について、原告の所有権が認められないとするならば、占有権に基いて、被告に対し、右鉄条網及び板囲の撤去と右土地部分の明渡とを命ずる判決を求める。
と述べ、
参加人訴訟代理人は、「(一)参加人と被告との間に於て、別紙第一目録記載の(3)の土地が参加人の所有であることを確認する、(二)被告は、参加人に対し、右土地について、千葉地方法務局市川出張所昭和三五年一月七日受付第八〇号を以て被告の為めに為された所有権移転登記の抹消登記手続をしなければならない、(三)訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、(尚、参加人は、原告に対し、別紙第一目録記載の(1)乃至(4)の土地及び建物について、仮登記に基く本登記手続を求めたのであるが、この部分については、原告との間に於て、昭和三六年一二月一日、裁判上の和解が成立したので、原告との間の訴訟関係は、之によつて、終了に帰した)、その請求の原因として、
一、訴外折手登は、原告に対し、昭和二八年一一月一〇日、無利息、弁済期同年一二月一一日、弁済期後の損害金金一〇〇円について一日金二五銭の割合なる約定を以て、金一二〇、〇〇〇円を貸付け、同時に、原告は、之に対し、その所有にかかる別紙第一目録記載の(1)乃至(4)の土地及び建物に抵当権を設定し、且、右債務不履行のときは、代物弁済として、右各土地及び建物の所有権を債権者に移転する旨の約定を為し、右訴外人は、之に基いて、右土地及び建物に対し、所有権移転請求権保全の仮登記を為し、参加人は、昭和三五年五月一二日、右訴外人の相続人である訴外折手トヨ(同訴外人は、昭和三〇年七月八日死亡し、その母である訴外折手トヨに於て、その相続を為したもの)から前記債権並に之に附随する右権利一切の譲渡を受け、その頃、右訴外人から、原告に対し、その旨の通知を為した。
二、然るところ、原告は、参加人に対し、右債務の履行を為さなかつたので、参加人は、原告に対し、本件参加申出書を以て、前記約定に基き、代物弁済として前記土地及び建物の各所有権を取得する旨の意思表示を為し、同書面は、昭和三五年七月二日、原告の訴訟代理人に送達されたので、之によつて、参加人は、同日、右各所有権を取得するに至つたものであるから、右各土地及び建物は、全部、参加人の所有である。
三、然るに拘らず、被告は、右土地の内(3)の土地が参加人の所有であることを争い、且、登記原因なくして、不法に、それについて、所有権取得の登記(千葉地方法務局市川出張所昭和三五年一月七日受付第八〇号を以て被告の為めに為された所有権移転登記)を為して居るので、参加人と被告との間に於て、右(3)の土地が参加人の所有であることの確認を求めると共に、所有権に基いて、被告に対し、右登記の抹消登記手続を為すべきことを命ずる判決を求める。
と述べ、
被告は、「原告及び参加人の請求を棄却する、訴訟費用は、原告及び参加人の負担とする」との判決を求め、答弁として、
(イ)、原告主張の請求原因事実について、
一、原告主張の土地について、被告をその名義人とする原告主張の登記が為されて居ることは、之を認める。
二、その余の事実は、之を否認する。
三、原告主張の各土地は、被告及び訴外巌本繁雄、同石川栄一等の所有に属するものである。
(ロ)、参加人主張の請求原因事実について、
一、参加人主張の土地及び建物について、訴外折手登の為め、参加人主張の仮登記が為されて居ること、及び右土地の内(3)の土地について、被告をその名義人とする参加人主張の登記が為されて居ること、並に右訴外人が死亡したことは、之を認める。
二、その余の事実は、之を否認する。
三、右の(3)の土地は、被告の所有に属するものである。
(ハ) 尚、右(3)の土地は、元、原告の所有であつたが、訴外巌本繁雄が原告からその所有権を取得し、次いで、被告が右訴外人からその所有権を取得し、その所有権者となつたものである。
と述べ、
立証(省略)
理由
第一、原告の占有回収を求める部分の請求について。
原告対被告の関係に於て、原告に所有権のないことは、後記認定の通りであるから直ちに占有権に基く請求について判断を為すものである(証拠)と弁論の全趣旨とを綜合すると、別紙第二物件目録記録の土地部分は、原告に於て、之を占有して居たものであるところ、被告及び訴外巌本繁雄、同石川栄一の三名は、昭和三四年一二月九日頃、人夫数名を伴つて、右土地部分上に存在した原告所有の物置を取毀した上、実力を以て、右土地部分の占有を奪取し、右土地部分の周辺に鉄条網及び板囲を設置して、その占有を継続して居ることが認められ、この認定を動かすに足りる証拠はないのであるから、右被告等三名は、右土地部分に対する原告の占有を侵奪したものであると云わざるを得ないものであり、従つて、原告は、右被告等三名に対し、右侵奪された占有を回収する為め、右鉄条網及び板囲の撤去と右土地部分の明渡とを求め得るものであるところ、被告を除く他の訴外人二名は、既に、右土地部分を原告に明渡し、且、右鉄条網及び板囲の共有持分権(右鉄条網及び板囲の所有関係は、右認定事実と弁論の全趣旨とによつて、右被告等三名の共有であると認定する)を原告に譲渡して居ることが、当裁判所に顕著であるから、被告一人に対して、右撤去及び明渡の請求を為すことは適法であると云うべく、又、本訴の提起が右侵奪の為された時より一年内であることは、当裁判所に顕著な事実であるから、被告に対し、右撤去と明渡とを命ずる判決を求める部分の原告の請求は、正当である。
第二、参加人の所有権確認及び原告並に参加人の登記抹消を求める部分の各請求について。
一、原告は、被告に対する関係に於て、別紙第一物件目録記載の(3)の土地が原告の所有である旨を主張し、参加人は、被告に対する関係に於て、同土地が参加人の所有である旨を主張し、又、被告は、原告及び参加人の何れに対する関係に於ても、同土地が被告の所有である旨を主張して居るので、同土地が右三者の中の何人の所有に属するものであるかについて按ずるに、(証拠)と弁論の全趣旨と当裁判所に顕著な事実とを綜合すると、
(1)、訴外折手登は、昭和二八年一一月一〇日、原告に対し、金一二〇、〇〇〇円を、弁済期同年一二月一一日、期限後は金一〇〇円について一日金二五銭の割合による損害金を支払う旨の約定で、貸付け、原告は、同日、右債務の担保として、別紙第一物件目録記載の土地及び建物に対し、抵当権を設定すると共に、期限に右債務の履行を為さないときは、代物弁済として、右土地及び建物の所有権を全部右訴外人に移転する旨の約定を為し、翌一一日、右土地及び建物について、右抵当権設定の登記(千葉地方法務局市川出張所同日受付第七八九〇号)並に代物弁済契約による所有権移転請求権保全の仮登記(同出張所同日受付第七八九一号)を了したこと。
(2)、而して、右訴外人は、昭和三〇年七月八日死亡し、その母である訴外折手トヨがその相続を為して、右各権利を承継取得し、参加人は、昭和三五年四月一二日、右訴外人から、右各権利(仮登記上の地位を含む)の譲渡を受けて之を取得し、右訴外人は、同月一六日到達の書面を以て、原告に対し、その旨の通知を為したこと。
(3)、而して、右訴外折手トヨは、昭和三五年五月七日、右各抵当権設定登記及び仮登記について、夫々、相続による権利取得の附記登記(抵当権設定登記につき同日受付第六三五二号、仮登記につき同日受付第六三五三号、孰れも、附記一号)を為し、参加人は、同日、右各登記並に仮登記について、夫々、譲渡による権利取得の附記登記(抵当権設定登記につき同日受付第六三五四号、仮登記につき同日受附第六三五五号、孰れも、附記二号)を為したこと。
(4)、従つて、右各権利の権利者並に右各登記及び仮登記の名義人は、孰れも、参加人であること。
(5)、而して、別紙第一物件目録記載の(3)の土地については、前記訴外折手登が前記請求権保全の仮登記を取得した後である昭和三四年六月一五日に、訴外巌本繁雄が、売買による所有権取得の登記(同日受付第七一七三号)を為し、その後、昭和三五年一月七日に至り、更に、被告が、売買による所有権取得の登記(同日受付第八〇号)を為したこと。
(6)、その後、同年六月一三日に至り、原告が、被告に対し、右所有権取得登記の抹消請求訴訟を提起し、次いで、同月二三日、参加人が、原告及び被告を相手方として、本件訴訟に参加し、原告に対し、前記土地及び建物について、前記仮登記に基く各本登記の請求を、被告に対し、右土地の中前記(3)の土地が参加人の所有であることの確認並に同土地について為された右所有権取得登記抹消の各請求を為し、参加人と原告との間に於ては、昭和三六年一二月一日に至り、裁判上の和解が成立し、原告は、参加人に対し、右土地及び建物について、右仮登記に基くその各本登記を為すことを約すると共に、参加人は、原告に対し、更に、右土地及び建物を代金五〇〇、〇〇〇円で原告に売渡し、之について、売買による各所有権移転登記を為すことを約したこと。
が認められ、右認定を動かすに足りる証拠はなく、右認定の事実によつて、之を観ると、参加人は、前記仮登記上の権利者であるから、原告に対し、右仮登記によつて保全された前記認定の権利を行使し得るものであるところ、原告は、参加人が右権利を有することを承認した上、代物弁済として、前記土地及び建物の所有権を参加人に移転し、且、仮登記に基くその各本登記を為すことを承認したものであると認められるから、之によつて、右土地及び建物の所有権は参加人に移転したものと云うべく、而して、参加人は、更に、之を原告に売渡したものであると認められるから、之によつて、その所有権は、原告に復帰したものと云うべく、従つて、右(3)の土地は、参加人と原告との間に於ては、結局、原告の所有に帰して居るものであると断ずる外はなく、而して、原告及び参加人は、右(3)の土地について為された被告の前記所有権取得の登記は、登記原因を欠く無効のそれであると主張して居るのであるが、之を認めるに足りる証拠は全然ないのであるから、右登記は、それが為されて居ること自体によつて、その登記された登記原因によつて、適法に為されたものであると推定する外はなく、従つて、被告は、原告に対する関係に於ては、利害関係ある第三者たるの地位を有するものであるところ、原告は、右買受による所有権の取得について、その登記を了したことを立証して居ないのであるから、その所有権の取得を以て、被告に対抗することの出来ないものであり、従つて、原告は、被告に対し、その所有権を有することを主張し得ないものであるから、被告に対する関係に於ては、所有権を有しないものであると認定する外はなく、次に、参加人は、前記認定の裁判上の和解を為したことによつて、前記仮登記に基く各本登記を為し得る債務名義を取得して居るものであり、而して、斯る場合に於ては、本登記を為すことについて、確定判決を得たと同一の結果になるものであつて、それによつて何時にても本登記を為し得るものであるから、その本登記を了した場合と同一の法的効果が生ずるものと解するのを相当とすべく、然る以上、参加人は、前記各所有権の取得を以て、仮登記後に所有権取得の登記を為した者に対抗し得るものであるところ、被告は、右(3)の土地について、前記認定の通り、右仮登記の為された後に所有権取得の登記を為した訴外巌本に次いでその所有権取得の登記を為したものであるから、参加人は、その所有権の取得を以て、被告に対抗し得るものであり、従つて、参加人は、被告に対し、右(3)の土地について、その所有権を有することを主張し得るものであるから、参加人と被告との間に於ては、右土地の所有権は、参加人にあるものと断ぜざるを得ないものである。
二、右の次第で、原告対被告の関係に於ては、右(3)の土地の所有権は原告にはなく、又、被告の同土地に対する前記所有権取得の登記が無効であることの証明もないのであるから、被告に対し、右登記の抹消を求める部分の原告の請求は、失当であり、又、参加人対被告の関係に於ては、右土地の所有権は、参加人にあるところ、被告は、之を争つて居るのであるから、参加人は、それがその所有であることの確認を求める利益を有し、従つて、その確認を求める部分の参加人の請求は、正当であり、而て、参加人は、右所有権の取得について、仮登記に基く本登記を為したと同一の地位を有するものであるから、右仮登記の為された後に前記所有権取得の登記を為した被告に対し、その登記の抹消を求め得るものであり、従つて、被告に対し、その抹消登記手続を為すべきことを命ずる判決を求める部分の参加人の請求は、正当である。
三、仍て、原告の請求は、前記正当なる部分のみを認容し、その余は、之を棄却し、参加人の請求は、全部、之を認容し、原告と被告との間に於て生じた分の訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九二条を、参加人と被告との間に生じた訴訟費用の負担について、同法第八九条を、仮執行の宣言について、同法第一九六条を、各適用し、主文の通り判決する。
千葉地方裁判所
裁判官 田 中 正 一
第一、第二物件目録(省略)